オーディオ環境改善(2) 吸音材と定在波対策

背景

  一般住宅でオーディオをすると残響まわりで以下のような問題が出てきます。

  1. 残響

 そのまんま残響、リバーブです。音がちょっとぼけてもこもこして聞こえます。スタジオですと録音本来の音を正確に聞きたいので残響をなくして 0.3~0.5ms のドライ(残響がないことをドライまたはデッド、あることをウェットまたはライブというそうです)な部屋を目指します。

 一方オーディオでは聞き心地優先なので逆に残響の長い0.6~0.8msの部屋を好むようです。また帯域分布的には125~250Hzの残響を短く、上と下を長くするのがよいとか。詳細は以下参照
http://www.salogic.com/Basic-RoomTuning/Basic-RoomTuning.htm
https://www.soundzone.jp/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0/9785/

 この辺は好みで調整します。どっちも嫌いでないのでここにはとんちゃくしません。

2. フラッター/ロングエコー

 その名の通りエコーです。主に高域で発生し、部屋に入って手をたたくとエコーが聞こえます。幸い、自分の部屋では初めから気になりませんでした。スピーカーのない洋室では初めありましたが、ちょっと家具を置けば消えました。

3. 定在波

 理科では定常波と習った記憶がありますが、壁の間で反射して特定の場所にピークとディップが現れるます。 以下の資料が詳しくてまとまっています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9A%E5%B8%B8%E6%B3%A2
http://www.sona.co.jp/sitemap.html#downlord

 音が漏れない部屋はご近所迷惑を考えると遠慮なく音を出せるのでいいですが、漏れない音は反射して帰ってくるので、こういったでこぼこが発生します。オーディオ的には周りに誰もいない音ダダ漏れの日本家屋がお金がかからない範囲では理想の環境なのです。

目的

 無対策状態での自分の部屋の測定結果が以下になります。


 100Hz付近が広くて深い谷になっています。ここまで深いとほぼ聞こえません。 これが一番やっかいで、帯域ごとの音量が変わってしまうので音の印象が別物になってしまいます。 ヘッドフォンと比べると差は歴然です。さすがにつらいのでこの100Hzの谷がなくす平坦化を目的としてルームチューニングを行います。

 引っ越しやリフォームなどのコスト大の方法を除けば対処法としてはスピーカーかリスニングポジションを変える、反射/拡散板を置く、吸音をするなどがありますが、生活空間にスピーカーを置くことを考えるとスピーカーとリスニングポジションに移動の余地はないので反射/拡散、吸音での対策を考えます。

部屋環境

 部屋は鉄筋コンクリートマンションの一階です。鉄筋コンクリートが一番防音性はよいようです。音は下に響きやすいらしいので1階を選びました。角部屋がよかったですが、丁度よい部屋が開いていませんでした。

 スピーカーのある部屋は、6畳の和室と6帖のダイニングキッチンが襖で仕切られており、押し入れもあるので 実質12畳 ちょいあります。使用可能な空間を広くするため、押し入れ部分にスピーカーとディスプレイを、その前に自作の机を置いています。この机も、鍵盤と一体化したものを自作しまして、狭い部屋を広くするために色々工夫しています。下図が概略で、天井は2.4mです。

部屋

 stndwaveという この部屋の寸法から定在波ををシミュレーションするソフトにこのデータを入力します。 ただし、単純なWxHxDぐらいしか入力できないので直方体に単純化しています。100Hzにすごいディップが現れています。

シミュレーション結果

 これを吸音でどうにかなるかを確かめるために、各壁の吸音率を減らしていったのですが、すべての面の吸音率を0.3,4程度まで下げないと平面になりません。特に天井と床の影響がでかいみたいですが、この2つはどうにも出来ません。吸音では無理っぽいと言うのがシミュレーション上の結果でした。

測定方法

 測定方法には最初sonar works Reference 4を使用しました。これはリスニングポジション周りの複数点での測定を行って帯域分布を得ると共に、測定結果を元にEQを掛けて自動補正をしてくるソフトです。オーディオインターフェースがあればマイク付属版を購入すれば測定できます。たまにセールもやっています。しかし一回の測定に15分ぐらいかかり少しずつ条件を変えての実験には使いずらいです。

 そこで簡易測定方法としてREWを導入しました。以下のサイトが詳しいです。一回の測定が数秒で出来、精度も400Hzぐらいまではかなりよいです。

https://audio-seion.com/rew-setting/

吸音材の原理と運用方法

 吸音材を買う前に基本的な性質と運用方法を調べました。

 まずオーディオで使用される吸音体には主に多孔質型、板(膜)振動型と共鳴管型です。下記サイト参照
http://esd.env.kitakyu-u.ac.jp/kuroki/KAANET_kaap/kuroki/text/txt21.html

多孔質型 ロックウール、グラスウール、後述のホワイトキューオンなどがあります。細かい細孔と空気との摩擦で音を熱に変えます。

板(膜)振動型&共鳴管型 特定周波数で板や共鳴管を共鳴させてやはり空気との摩擦で熱に変換します。特定周波数周辺にのみ影響し、後述するように壁際でも効果を発揮できますが吸音率は多孔質型ほどないようです。

 運用方法を説明する前にwikipediaの定在波のページを見ましょう、部屋の中の定在波は両端固定の以下のような動きをします。ここで、速度は腹となる部分で最大となり、圧力はその逆であることが重要です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9A%E5%B8%B8%E6%B3%A2

 多孔質型吸音材は速度に対して左右するので、波長の(2n-1)/4倍の位置で最大効率なり、壁際では吸音してくれません。

 一方板(膜)振動や共鳴管型は圧力に対して作用し、2(n-1)/4倍の位置で最大効率となります。

 つまり原理ごとに効果を発揮する場所が違います。特に定在波が発生する低域は波長が長いので、共鳴型の方が使いやすいです。例えば100Hzですとその波長は3.4m (=v/f=340/100)で1/4波長は0.85mなので壁から8.4mの距離をとるとよいですが、そんなことをすると生活空間が狭まります(しかし後の実験結果からすると十分厚くて重い多孔質型吸音材ならベスト位置にしなくても必要十分な効果は発揮してくれました)。

主な吸音体

多孔質型

 MGボード、GCボード それぞれロックウール、グラスウールをボード状に固めた物です。固めてあるのであまり飛散しないようですが、適当な布でくるみましょう。布でくるんで立てかけるだけなので自作も簡単です。100mmも厚くすれば自立できます。重く、厚くなるほど低域まで吸音してくれます。200Kまでいくと、逆に高域の吸音率が少し落ちますので、150Kの100mm厚が一番バランスがよさそうです。

http://inforent.dreamblog.jp/blog/116.html

板(膜)共鳴型

 limb mass membrane absorber, membrane aborberなど、ロックウールやグラスウールを木枠にはめて、ピンと張った布を取り付けて作ります。動画で検索すると英語ですがDIY方法が一杯でてきます。ただし、期待する波長に作用するよう作るのは実際には結構難しいそうです。
https://www.acousticsciences.com/art-noxon/limp-mass-membrane-bass-traps

既製品では丁度100Hzに作用するVicousticのSuper Bass Premiumなんてものがあります。お高いですが、個人輸入すると少しは安くなります。

https://www.mi7.co.jp/products/vicoustic/super-bass-extreme/

共鳴管型

 市販の瓶や適当な長さにきったパイプなどにロックウール等を詰めてつくれるそうです。こちらはあまり調べていません。

その他

AGS 吸音材ではなく拡散材ですが、柱状拡散体というものがあります。拡散すれば定在波の条件が崩れるので、こっちでも効果はでるそうですが、100Hzまで効かそうとすると市販品ではなく太い柱の特注品が必要になるそうです。
https://www.noe.co.jp/technology/36/36news5.html

 かなりお高いので自作で何とかしようとしている方が結構いるのでこの辺参考にするとよいでしょう。
http://messa.air-nifty.com/blog/2017/09/sylvanankh-be4d.html

大きな板

 定在波の状況さえ変わればよいので吸音ではなく反射でも対処できるはずです。反射には波長の1/2の板がいるらしいですが、もっと小さくても効率は悪いながら、反射はしてくれるようです。襖をつかって実験した限りではあまり効きませんでしたが

実験

 とりあえず試しに多孔質吸音材を1次反射面に貼り付けてみます。

 先ずは吸音材の選定です。色々売っていますが、ロックウール、グラスウールは効果は高いですがチクチクする素材が飛ぶので住宅環境上に避けたいです。設置後は触らなければ大丈夫そうですが、ペットや家族がいるなら避けた方がよいです。アスベストほどの健康被害はないですが、チクチクしてうっとうしいです。

 残るメジャーどころはウレタンファームの吸音材ですが、上記2つに比べて効果が薄いようです。いい物がないかとしばらく調べて見つけたのがホワイトキューオンです。https://www.bouon.jp/acoustic/

 グラフを見る限りグラスウールに匹敵し、DTMでよく見かけるミニソネックスより効果があるようです(メーカーが出しているグラフなのであまり当てになりませんが)。お値段も手頃なのでこれにしました。そのままですと白くてまぶしいので不繊維でカバーを作ります。amazonさんが安かったです。

 この布は通気性がよければなんでもよいです。通気性に関しては布で口を来るんでも楽に呼吸が出来ることを目安にすればよいそうです。

  見た目を変えたいだけなのでくるんで両面テープで貼り付けるだけで完成です。 布用両面テープをつかえば不繊維もしっかりくっつきます。

 6枚購入して左右のスピーカーの後ろと横、後ろ隅の壁に設置し、前後で測定した結果がこちらになります。

Before

After

  1kHzまわりのでこぼこがちょっときれいになり、5khz周辺の左右のばらつきも改善、聴感上は高域が結構ドライではっきりした音になりました。効果は確認できましたが、これがいい音かどうかは好みの問題だと思います。吸音材がない方は悪く言うとモヤモヤしていますが、よく言うと柔らかく、聴き疲れしない音になります。そして当然ながら100Hzには全く聴きませでした。

 次に配置を少し変更します。ここからは簡易化のためREWで測定します。

まず無対策の状態です。

L 赤 R 緑

 つぎにホワイトキューオンで2枚重ね410x910x100mmを3セットつくり、スピーカーの後ろと左側の壁の一時反射の通り道に置きます。

ホワイトキューオン配置図
L 赤 R 緑

 100Hzの少し上までは効いています。200Hzまわりの山も小さくなりましたが、肝心の100Hz付近には十分な効果がありませんでした。そこでSuper Bass Premium(以下単にベーストラップ)x4をスピーカー後ろの壁に2セットずつ追加します。単体での効果を見たいのでホワイトキューオンは取り除きます。

L 赤 R 緑

 …なんとなく予想はしていましたが、10万近くかかったんだからもうちょっとこう頑張って欲しかったかな。100Hzまわりはホワイトキューオンよりは動いていますが、ほとんど効いていないです。

 ベーストラップでは期待するほどの効果がなかったのでロックウールを使用してみます。150K、50mmのMGボードを重ねて布で包み、910x605x100のボードを6セット作成しました。数値データ見る限り結構効きそうです。ホワイトキューオンとは横幅が違いますが、これでホワイトキューオンを置き換えて比較してみます。

L 赤 R 緑

 いままでになく低域が動きました。多孔質型が壁と距離を置く必要がありますが、スピーカー後ろのスペースは結構空いているのでここで距離を空けられたのがよかったのかと思います。70Hzは逆に谷が深くなってしまいましたが、効いているならば場所を調整して上手い場所を探せそうです。

 後は、これらの吸音体を活用して丁度よい帯域分布となる場所と組み合わせを探します。後はひたすら地道な作業です。

 結果が以下となります。 ロックウールx5セット、その上にホワイトキューオンを2セット置きました。 順当に吸音材を増やしていくとよい結果になっていきました。

青がロックランド、橙色がホワイトウール
L 赤 R 緑

 100Hzの谷はかなり狭く、浅くできました。300Hz, 1Khzが少し盛り上がっていますがこれはEQで落とせます。定在波に対してはEQで持ち上げるより下げた方がよいです。定在波でディップとなっている部分を持ち上げると、打ち消す側の音量も上がり効きが悪い上、リスニングポジションで聞こえないだけで音量自体は普通に上がっています。そのため低域を持ち上げる隣の部屋に響きやすいのです。

補足1 ここからホワイトキューオンを取り除くと以下の結果となります。最初の実験では100Hz周辺にはほぼ効いていなかったホワイトキューオンが、ロックウールの上に置くとかなり効きました。設置する場所が重要だと分かります。

L 赤 R 緑

補足2 また、和室とDKの襖の位置をこれまでは中心だったのを移動してためしたところ、70Hzまで低域が大きく動いた。吸音材を設置するほかに家具などの大きな物を動かすのもよいだろう

 最後にオーディオインターフェース付属のEQでピーク部分を削った結果が以下となります。

L 赤 R 緑

 十分フラットは帯域が得られ、聞きやすくなり満足です。悲しいことにMGボード1セットとSuper Bass Premium2セットはなくてもよいという結果になりました。あらかじめ予測するのは難しいとはいえ、コストが高かったので残念です。この手のものは買うと高いのですが、売ると捨て値になります。

結果

 シミュレーション上では吸音での対処は難しそうではあったが、実際にはスピーカー周りにロックウールとホワイトキューオンをおいたのみで十分対処できた。これはシミュレーションソフトがかなり入力項目が少なく実際の部屋の状況をシミュレーションに入力出来てないからだと思われる。吸音体はスピーカーまわりにを置いたときが特に影響が大きく、逆にリスニングポジション背後の壁においてもほぼ影響はなかった。

 定在波は対策が難しいと言われているが70Hzぐらいまでは案外なんとかなった。低域は波長が長いため、大きく動かさないと変化しないと聞いていたが、10センチ程度の調整でも割と影響が大きかった。シミュレーションと実際が合わないことも多いので、諦めずダメ元で取りあえず試してみるのがよいだろう。


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